No.1194 牛の舌・蹄周囲皮膚

動衛研・小平


[動物]牛,ホルスタイン種,9週齢.
[臨床事項]本症例は口蹄疫ウイルス(FMDV)感染実験に供された 1 頭である.舌上皮内接種(106TCID50 / mL) 1 日目に接種部位に水疱がみられた.接種 2 日に発熱と両後肢趾間皮膚の水疱形成が確認された.接種 3 日目に舌の水疱は破れて潰瘍を形成した(図 1).趾間皮膚の水疱形成は四肢に確認された.趾間の水疱のいくつかは接種 3 日目に破れていた(図 3).接種 3 日目に安楽殺が行われた.
[剖検所見]四肢の趾間水胞病変,舌の舌体部背面(接種部位)および舌根部背面の潰瘍,上顎口唇の潰瘍,下顎口腔粘膜のびらんが確認された.その他著変は認められなかった.
[組織所見]舌粘膜上皮では有棘細胞の壊死が顕著に観察され,基底層まで達してびらん・潰瘍形成が見られた(図 2.Bar=400μm).粘膜下織では単核細胞と好中球の浸潤が認められた.蹄周囲の皮膚では有棘細胞の壊死が顕著に見られ,その壊死病変部に水疱は形成されていた(図 4.Bar=400μm).表皮の病変は,まず有棘細胞層表層部分において,真皮乳頭末梢部分に隣接した有棘細胞の壊死から始まっている傾向を示した.そして真皮乳頭の組織構造が消失し,周囲有棘細胞の壊死と棘融解が加わり,その部分から表層の表皮がはがれるようにして水疱は形成されていた.水疱の下部では有棘細胞層の壊死は基底層まで達しており,炎症性細胞の浸潤が確認された.真皮では血管周囲に好中球および単核細胞の浸潤が確認された.抗 FMDV モノクローナル抗体を用いた免疫染色の結果,病変部の主に有棘細胞層に FMDV のウイルス抗原が確認された(図 5.Bar=400μm)
[診断]舌:壊死性潰瘍性舌炎.蹄周囲皮膚:水疱性皮膚炎(牛の実験的口蹄疫).
[考察]本実験症例では牛の口蹄疫の特徴的な舌病変,蹄周囲水疱病変が確認された.口蹄疫は FMDV によって引き起こされる牛や豚といった偶蹄類の伝染病である.豚より牛のほうが少ないウイルス量で感染・発病が引き起こされるため,日本のような口蹄疫清浄国においてはまず牛において発生が確認される可能性が高い.一方で感染豚からは牛よりも大量のウイルスが排泄されるため,養豚農家に発生した場合には感染拡大のリスクが高くなる.口蹄疫の防疫対策として,早期摘発,早期淘汰・封込めが最も重要であることから,牛においても豚においても口蹄疫の初期症状の特徴を把握することは重要であると考える.(山田 学)