No.1195 犬の大脳

鳥取大学


[動物]犬,ヨークシャー・テリア,雄,約10歳齢.
[臨床症状]運動失調,振戦,発作,狂騒などの症状が進展.MRI 画像検査により左前頭葉部を中心とした高信号領域が観察されたため,脳腫瘍が疑われた.鑑別診断として炎症,出血,梗塞が挙げられた.予後不良のため安楽死.
[剖検所見]脳の外観では左前頭葉部が腫大し左右非対称であった.脳底部髄膜下実質に点状出血が多発していた.前頭葉部から間脳部の割面では,左側に主座した軟腫瘤様病巣がみられ,軟化・空洞形成を伴っていた(図 1,Bar=1cm).
[組織所見]白質を中心として,淡明で円形な核を有する腫瘍細胞の浸潤性増殖が認められた(図 2).腫瘍細胞は境界不明瞭な好酸性細胞質を有しており,しばしば GFAP に陽性を示した.腫瘍細胞間には弱好塩基性に染まる物質の沈着や空胞形成が見られた.病巣内には壊死が多発しており,その周囲には腫瘍細胞の偽柵状配列が観察され(図 3,*:壊死巣),線維性星状膠細胞に類似の紡錘型細胞も認めた.さらに腫大した内皮細胞を有する血管が高密度に増生し腎糸球体様を呈する部位(図 4)や不整に拡張した血管が散見された.
[診断]混合膠腫 mixed glioma (希突起星細胞性腫瘍 oligoastrocytic tumors)
[考察]本病変は明瞭な壊死と血管増生が特徴的である悪性脳腫瘍であり,提出者は膠芽腫 glioblastoma (高グレード星状膠細胞腫 High grade astrocytoma)と診断した.集会において,希突起膠細胞に類似の腫瘍細胞の混在を指摘する意見が多かったこと,分化傾向を示す細胞(GFAP 陽性細胞ならびに Olig-2 陽性細胞)が観察されること,から上記診断となった.病巣内の空胞は,腫大・活性化したミクログリア(Iba-1 陽性細胞)ならびに白質傷害(髄鞘の崩壊像)の所見と考えた.また,病巣内には GFAP 陰性細胞の集簇部位(未分化な腫瘍細胞の増殖を疑う部位)や上衣細胞への分化を疑う所見もみられた.(寸田祐嗣)
[参考文献]
1) Vet Pathol. 2003 Nov;40(6):659-69.
2) Vet Pathol. 2009 May;46(3):391-406.
3) Vet Pathol. 2011 Jan;48(1):266-75.
4) Vet Pathol. 2014 Jan;51(1):146-60.
5) Cancer Cell. 2006 Mar;9(3):157-73.
6) Histopathology. 2014 Feb;64(3):365-79.