No.1197 豚の脾臓

動衛研・小平


[動物]豚,LWD種,8 週齢.
[臨床事項]本症例はアフリカ豚コレラウイルス(ASFV)の筋肉内接種感染実験に供された1 頭である.接種 3 日目から発熱(40℃<)がみられ,接種 4 日目には壁に寄り添うようにうずくまり,元気消失し,食欲不振を呈した.接種 5 日朝に斃死して発見された.
[剖検所見]脾臓が著しく腫大し,色は黒色調を呈していた(図 1).腸間膜リンパ節を含めた腹腔内のリンパ節の色は総じて黒色調を呈していた(図 1, 矢印).腹水および胸水は著しく増量し,赤色透明を呈していた.顕著な肺水腫がみられた.扁桃は充血し,赤色調を呈していた.心外膜および胃粘膜と膀胱粘膜に点状出血が確認された.
[組織所見]脾臓の赤脾髄領域では,大量の赤血球の充満による脾洞と脾索の拡張がみられた(図 2.HE.Bar=100μm).うっ血し拡張した脾洞と脾索が破錠して出血している部位もいくつか確認された(図 3.Azan.Bar=100μm).好中球も多数みられた.白脾髄領域では濾胞壊死がみられ,中心動脈周囲のリンパ球の顕著な減少も確認された(図 4.HE. Bar=100μm).莢動脈や中心動脈を含めた血管には組織傷害は認められなかった.
[診断]赤脾髄:赤血球充満による脾洞および脾索の拡張と出血,白脾髄:濾胞壊死(アフリカ豚コレラ感染実験豚)
[考察]アフリカ豚コレラ(ASF)は, ASFV による豚やイノシシの発熱や全身の出血性病変を特徴とする致死率の高い伝染病である.我が国ではこれまで本病の発生は確認されていないが,2007 年以降,常在地であるアフリカから南コーカサスへ飛び火し,ロシア及び東欧諸国へと徐々に発生地域が拡大している.2017 年にはロシアのモンゴル国境付近で点在的な発生を認め,次いで 2018 年には中国で初発例が報告された.世界最大の養豚国である中国での発生により,本病清浄国である我が国においても本病の侵入リスクは高まっている.動衛研・小平では ASF の国内侵入に備えて近年東欧・中国で流行しているウイルス株を導入し,豚への感染実験を実施し,本病の診断・防疫体制の整備を進めている.ASF と豚コレラを含めた他の疾病との鑑別点として,特徴的な脾臓の腫大と腹腔内のリンパ節(特に胃の周囲のリンパ節)の暗赤色化の肉眼病変が有用である.本症例では ASF の特徴的な脾臓と腹腔内リンパ節の肉眼病変が再現された.また組織学的にも赤脾髄領域の Expanding hemorrhage と白脾髄領域の濾胞壊死が再現された.(山田 学)
[参考文献]
Sánchez-Vizcaíno JM, et al. J Comp Pathol. 2015 152:9-21.