[動物]トナカイ,去勢済雄,4 歳.
[臨床症状]起立困難,元気消失,期間不明の下痢,削痩を主訴にミズーリ大学獣医健康センターを受診.来院時横臥し,意識状態は鈍麻,体温 42.6℃,心拍 96 回/分,呼吸数 20 回/分で,口腔粘膜は充血していた.全ての眼球反射は消失していた.治療開始直後に斃死した.
[剖検所見]体重は 116 kg.会陰周囲に糞便が付着.少量の胸水と約 2.5 L の腹水(麦稈色,漿液血液状)があり,第一胃内には十分な量の草と少数の異物が存在した.第四胃の幽門部,小腸,盲腸,近位結腸(図 1)の粘膜はび漫性に暗赤色で,出血と肥厚が認められた.小腸と盲腸は赤緑色の水様〜顆粒状の液体を容れ,遠位結腸に便は認められなかった.
[組織所見]結腸の粘膜固有層は炎症細胞(マクロファージが大半を占め,形質細胞,リンパ球,好中球,好酸球が散見された)の浸潤によって著明に拡張していた(図 2).マクロファージの細胞質に直径約 3 μm の球状の病原体が多数存在し(図 3,油浸),これは PAS 染色陽性(図 4),抗 Histoplasma capsulatum 抗体陽性であった.病原体は細胞膜と円形の核を有していた.同様の炎症およびマクロファージ内病原体は遠位小腸にも認められた.脳,肺,心臓,脾臓,腎臓,肝臓,第一胃,第四胃に組織学的著変は認められなかった.
[診断]組織球内酵母を伴う,組織球性,リンパ球形質細胞性結腸炎(腸管ヒストプラズマ症)
[考察]ヒストプラズマは土壌に生息する二形性の真菌で,人を含む多くの動物種の感染例が報告されているが,体温の高い鳥類には感染しない.トナカイを含むシカ科動物における H. capsulatum 感染の報告は今回が初めてである.人ではエアロゾル化した小分生子の吸引による経気道感染が主だが,動物では犬で経腸感染,猫で経気道感染が目立つ.感染の成立やその後の経過には宿主の免疫状態と,体内に取り込まれる分生子の数が関連している.血液塗抹,針生検細胞診,組織診において典型的な形態やサイズの真菌性病原体をマクロファージ内に見つけることで暫定診断し,PCR や免疫組織化学的検査で確定診断を得る.真菌培養はバイオハザードの観点から推奨されない.北米では H. capsulatum var. capsulatum が一般的なため本症例の真菌もこのタイプと推察されるが,手技の関係上 PCR で確認することはできなかった.(三井 一鬼)
[参考文献] Fortin, JS. et al. 2017. J Zoo Wild Med. 48:925-8. 他.
|