No.1202 ブタの肝臓

日生研


[動物]ブタ,雌,55 日齢.
[臨床事項]母豚 250 頭規模の養豚場において,ブルーイヤーを示し衰弱・死亡する子豚が増加した.1 ロット当たりの発病率は約 20 %,死亡率は約 1 %であった.提出例は病性鑑定のために鑑定殺に供された 5 例のうちの 1 例である.
[肉眼所見]鑑定殺に供された 5 例に共通して肺門リンパ節の腫脹が観察された.その他,提出例では暗赤色肺,腸間膜リンパ節の腫脹が認められた以外,肝臓を含む他の諸臓器に著変は認められなかった.
[組織所見]小葉中心性に出血を伴う肝細胞壊死が顕著であった(図 1, 2).病巣内の肝細胞は一様に凝固壊死し,病巣辺縁部では空胞変性が認められた.病巣内にはマクロファージ(図 3,MAC387)と好中球の浸潤,類洞の拡張などが認められたが,渡辺鍍銀染色および抗 factor [ 免疫染色では細網線維や類洞内皮細胞の破壊は軽度であった.本症例は臨床ウイルス学的に PCV2 感染が確認されたため,肝細胞壊死と PCV2 感染との関りを免疫染色と in situ hybridization (ISH)により調べたところ, PCV2 抗原と遺伝子がクッパー細胞やマクロファージ,一部の肝細胞に散在性に確認された(図 4).
[診断]ブタの出血性小葉中心性肝細胞壊死(豚の肝異栄養症を疑う)
[考察]ブタの小葉中心性肝細胞壊死を起こす原因として,ビタミン E・セレン欠乏症による肝異栄養症,アフラトキシン中毒,ゴシポール中毒,鉄デキストラン中毒,オナモミ中毒等が知られている.これらのうち,アフラトキシン中毒ではリンパ球・形質細胞浸潤が顕著である点,ゴシポール中毒では胸・腹水症や心膜水腫を伴う点,鉄デキストランおよびオナモミ中毒においては消化管病変を併発する点などで提出例とは異なり鑑別される.提出標本の病理組織学的特徴はビタミン E・セレン欠乏症のそれに酷似するが,肝臓のビタミン E・セレン含量を測定することが出来ず,確定診断には至らなかった.豚のビタミン E・セレン欠乏症では肝異栄養症,マルベリー心臓病,黄色脂肪症,白筋症などが知られているが,それらは個々に独立して発症することが多いとされており,本症例でも肝臓以外に著変は見られなかった.また,提出標本に PCV2 の感染が確認出来たが,肝細胞壊死巣内外に局在していたことから PCV2 感染豚で見られる肝細胞壊死を伴う肝炎とは異なっていた.(小野浩輝)
[参考文献]
1) Cullen, J. M. and Stalker, M. J. 2016. Liver and Biliary System. pp. 280-331. In: Pathology of domestic animals, 6th ed., (Jubb, K. V. F., Kennedy, P. C. and Palmer, C. eds.) Elsevier, Piladelphia.
2) Harding, J. S. and Clark, E. G. 1997. Recognizing and diagnosing postweaning multisystemic wasting syndrome (PMWS). Swine Heal. Prod. 5: 201-203.
3) Sharp, B. A., Young, L. G. and Van Dreumel, A. A. 1972. Effect of supplemental vitamin E and selenium in high moisture corn diets on the incidence of mulberry heart disease and hepatosis dietetica in pigs. Can. J. Comp. Med. 36: 393-7.