No.1204 インコの肝臓

岩手大学


[動物]コザクラインコ,グリーンパイド,雄,2 ヶ月齢.
[臨床事項]本例は体重減少,呼吸雑音,開口呼吸,飲水量増加を示し,糞便に運動性桿菌が検出されたため,エンロフロキサシンが投与された.
[肉眼所見]肝臓および腎臓は腫大していた.
[組織所見]主な組織所見は,線維化を伴う胆管の中等度の過形成(図 1),リンパ球,形質細胞とマクロファージの多病巣性,中等度の浸潤,および胆管上皮細胞や肝細胞の細胞質内の顆粒状の虫体(図 2)であった.虫体は細胞質内の微小嚢胞内に複数認められたほか,独立して散在するものもあった.胆管上皮細胞質内の虫体はギムザ染色で青色に染まり,抗酸菌染色およびグラム染色で陽性を示した(図 3〜5).マッソントリクローム染色により増殖した胆管を縁取るように膠原線維が確認され(図 6),これら胆管周囲には α-SMA 陽性筋線維芽細胞が存在した(図 7).
[診断]胆管過形成と病巣内微胞子虫を伴う慢性リンパ球形質細胞性胆管肝炎 (Encephalitozoon hellem 感染症を疑う)
[考察]同様の病原体は腎臓の尿細管上皮細胞の細胞質内にも認められた.HE 染色像および特殊染色の成績から,本疾患の原因として Encephalitozoon spp.が疑われた.Toxoplasma spp.の虫体は抗酸性を示さず,グラム染色には陰性となることから否定した.微胞子虫類のうち,鳥類には主に E.hellem が感染する.通常は急性経過を辿り,組織学的には肝細胞の中等度に至る壊死を特徴とする.本例では肝細胞の壊死は軽度で,胆管の過形成や胆管周囲の線維化が顕著に認められたことから,これまでに記載のない慢性感染例の病理像と思われ本例を提出した.E.hellem はヒトに角結膜炎を引き起こす人獣共通感染症で,近年では牛,ウマ,カラスでも感染例が報告されているが,疫学的情報は限られている.( 若栗鴻一・落合謙爾 )
[参考文献]
1) Robert E. Schmidt,et al. 2015. Pathology of Pet and Aviary Birds Second Edition. Chapter 4: Liver: 111, 2012.
2) Duncan LM, et al. 1998 Mammalian Microsporidiosis. Vet pathol 37:113-128, 2000.