No.1205 マウスの肝臓腫瘤

(一財)残留農薬研究所


[動物]マウス,ICR 系 SPF マウス [Crlj:CD1(ICR)],雄,83 週齢.
[臨床症状]症例は,発がん性試験の対照群の動物で,投与78 週時に腹部膨満および自発運動低下を示したため,安楽殺した.
[剖検所見]肝臓は粗大結節状で,左葉,中間葉および右葉に15 mm大の腫瘤形成を伴っていた.肝臓以外の臓器・組織に特記すべき肉眼所見は認められなかった.
[組織所見]腫瘤(左葉,図 1)は,組織学的に肝細胞類似の細胞が 3〜5 層の厚さで索状に配列する肝細胞がんの組織像(図 2a)を示し,その半分は梗塞に陥っていた.肝細胞がん領域に加え,オーバル細胞が索状に増殖する部位(図 2b)から明瞭な胆管を形成する部位(図 2c, d)まで連続性の移行を示す胆管増殖帯を伴っていた.この胆管増殖帯は肝硬変における線維性隔壁の様に肝細胞がん組織あるいは周囲肝組織を囲鐃していた(図 1).肝細胞がん領域,胆管増殖帯(図 3)および周囲肝組織の境界はいずれも不明瞭であり(類洞壁における形態学的特徴による区別も不能),周囲肝組織内でも門脈域に胆管増殖が観察された(図 4,図 1四角内の拡大).また,当症例では,同一肝内に変異肝細胞巣,肝細胞腺腫(中間葉)および肝細胞がん(右葉)がみられ,中間葉では左葉類似の胆管増殖帯の他,肝細胞の核分裂像,単細胞壊死や核の大小不同が観察された.
[診断]オーバル細胞の表現型を伴う肝胆管細胞がん
[考察]当症例は,鑑別診断に肝芽腫,肝細胞がん,肝胆管細胞がんが挙げられる.肝芽腫とは,オーバル細胞の増殖部位が結節を作らず,周囲組織との境界が不明瞭なことから鑑別した.胆管増殖帯は,その構成細胞に異型が乏しい,形成された胆管の径は正常胆管のそれと差はない,線維性間質を伴わない,腫瘤内で門脈間を架橋するように増殖している,周囲肝組織の門脈域および中間葉でも類似の胆管増殖がみられる等から非腫瘍性病変の可能性がある.更に,梗塞が胆管増殖部位へ波及していないこと,明らかな索状型肝細胞がん領域内には胆管増殖帯は認められないことから,胆管増殖は非腫瘍性肝組織にみられている可能性が高い.以上から,肝胆管細胞がんと鑑別し,当症例をオーバル細胞および胆管の著明な増殖を伴う肝細胞がんと診断した.しかし,研修会当日の討議で,胆管増殖部位は腫瘍成分と捉えるのが適切との意見に従い,上記の診断となった.(志賀敦史)