No.1209 ウシの腹腔内腫瘤

宮崎大学


[動物]ウシ,去勢,9 ヶ月齢.
[臨床事項]本症例は膀胱頭側の腹腔内脂肪組織に付着するように存在していた.左潜在精巣が疑われたため内分泌検査(hCG 負荷試験)が数回実施された.hCG 負荷前後での血中テストステロン濃度は,通常の去勢牛の場合と同様,検出限界以下であった.その後,内視鏡下での外科的切除が行われた.なお,右精巣は摘出済みであった.
[肉眼所見]摘出組織は直径約1.5× 1cm 大で結合織によって包まれていた.割面中心部は黄褐色を呈し,その周囲は血管層で構成されていた.右精巣は内分泌検査以前に摘出済みであった.
[組織所見] 腫瘤辺縁は厚い平滑筋を有する動脈が多く占め,腔内には赤血球が貯留していた.腫瘤内部には高度な器質化がみられ,マッソントリクローム染色で青染を呈した.腫瘤中心部には核の消失やわずかに残存する精細管(図 1)が散見され,壊死した精細管や基底膜に一致した石灰沈着が見られた(図 2).壊死した精細管周囲には分厚い基底膜で囲まれた単層立方上皮が残存し(図 3),一部で網目状構造を形成していた.同部位は抗 cytokeratin 抗体(図 4)及び抗 vimentin 抗体(図 5)に陽性を示し,正常の牛の精巣網に類似する染色性であった.腫瘤内には出血巣があり,ベルリンブルー染色陽性のヘモジデリン色素(図 2)や PAS 染色陽性の淡黄色色素がみられた.
[診断]精細管の変性,壊死および高度の器質化がみられた精巣遺残組織(testicular nubbin)
[考察]ヒトの精巣退縮症候群(testicular regression syndrome)は,発達途中の精巣が胎児期に消失・退縮する先天性疾患と考えられ,血管層,線維化,異栄養性石灰沈着,ヘモジデリン沈着,精巣上体管,精管,蔓状静脈叢の存在,稀に生殖細胞が認められると報告されている.この構造体は testicular nubbin と呼ばれ,精巣の遺残組織と考えられている.本症例では,精巣上体管,精管ならびに生殖細胞は確認できなかったがほぼ同様の所見がみられたことからウシの精巣退縮症候群と診断した. (福家直幸・平井卓哉・山口良二)
[参考文献]
1) Spires SE, Woolums CS, Pulito AR, Spires SM. 2000. Testicular regression syndrome: a clinical and pathologic study of 11 cases. Arch Pathol Lab Med. 124(5):694-698.
2) Pirgon O, Dundar BN. 2012. Vanishing testes: a literature review. J Clin Res Pediatr Endocrinol. 4(3):116-20.