No.1211 豚の腎臓

動衛研つくば・鳥取県倉吉家保


[動物]豚,ミニブタ,雄,3 歳.
[臨床症状]元気消失,食欲低下を示し,1 ヶ月半後に予後不良として剖検された.同じ畜舎では羊が飼育されており,2 ヶ月前には同居ミニブタ 3 頭が死亡していた.
[剖検所見]肝臓,脾臓および腸管は癒着し,腸間膜に多数の小膿瘍形成を伴う重度の腹膜炎が認められた.肝臓と腎臓は重度に腫大し,腎割面では皮質が退色し,モザイク状を呈していた(図 1).
[組織所見]腎臓の病変は弓状動脈から皮質に主座し,壊死性血管炎と血管周囲および間質への単核細胞浸潤が多発していた(図 2).中小口径のほとんどの動脈において,血管壁の構造の乱れ,内腔の狭窄,中膜のフィブリノイド壊死,弾性板の断裂,血管壁及び周囲への単核細胞浸潤が認められた(図 3).外膜では好酸球,まれに好中球が混在していた.免疫染色では血管の全層に Iba1 陽性細胞が多数認められ(図 4),それらに CD3 陽性細胞がび漫性に混在していた.
[診断]腎の重度の壊死性組織球性血管炎(豚の悪性カタル熱)
[考察]羊ヘルペスウイルス 2 型(OvHV-2)による悪性カタル熱は(MCF)は牛,鹿等が感受性を示す致死的な感染症であるが,海外では稀に豚でも報告されている.罹患動物には,消化管粘膜のびらん・潰瘍,リンパ節の腫脹などが認められ,病理組織学的に,血管炎,リンパ系組織の過形成と壊死,非リンパ系組織の非化膿性炎がみられる.血管病変は,血管壁のフィブリノイド壊死と単核細胞浸潤が特徴的で,浸潤細胞は主に CD8 陽性T細胞とされる.本症例は,これらの病変に加え,複数臓器からの OvHV-2 遺伝子の検出,羊との疫学的関連がみられたことから MCF と診断された.血管周囲の炎症性細胞は T 細胞よりも組織球が主体であったが,これは,本症例の臨床経過が 1 ヶ月半であり,これまでの報告症例よりも長い経過をとったことに起因すると考えられた.(岡田綾子・木村久美子)
[参考文献]
1) O’Toole, D. and Li, H. 2014.Vet.Pathol. 51, 473-452.
2) Loken, T. et al. 1998. Vet.Rec. 143, 464-467.
3) Li, H. et al. 2012. Vet.Microbiol. 159, 485-489.
4) Nakajima, Y. et al. 1994. J.Vet.Med.Sci. 56, 1065-1068.