No.1214 イヌの膣腫瘤

岐阜大学


[動物]イヌ, トイプードル, 雌(今回避妊), 11 歳 6 ヶ月齢.
[臨床症状]膣腫瘤とともに左右乳腺部に複数の腫瘤が存在. 膣腫瘤と一部の乳腺腫瘤の切除とともに避妊手術も実施. 乳腺腫瘤は, 乳腺複合癌であった.
[肉眼所見]腫瘤は約 1.5 ×1.0 p, 境界明瞭で,割面は灰白色充実性であった.
[組織所見]膣粘膜下において, 類円形核と好酸性顆粒状の豊富な細胞質を有する腫瘍細胞が充実性に増殖 (図 1,スケール:50 μm). 腫瘍細胞には異型核が散見されたが, 核分裂像はみられなかった. 腫瘍内および辺縁には成熟した平滑筋束がみられ, これらの平滑筋細胞と腫瘍細胞の間には移行がみられた(図 2,スケール:50 μm). 腫瘍細胞内の顆粒は, PAS 陽性 Diastase 抵抗性で(図 3,スケール:20 μm),LC3 および p62 に陽性を示した. また, 腫瘍細胞は S-100 陰性, NSE, Desmin,α-SMA (図 4,スケール:50 μm)および Calponin に陽性を示した. Ki-67 陽性率は約 6 %であった. 電顕的には, 腫瘍細胞内に autophagy 関連小胞が多数充満し, 細胞質内には myofilament が観察された(図 5,スケール:200 nm). また,腫瘍細胞間には基底膜, 細胞膜には pinocytotic vesicles がみられた.
[診断]顆粒細胞変化を伴う平滑筋腫 Leiomyoma with granular cell change
[考察]本症例では,形態的に顆粒細胞腫の範疇に含まれる腫瘍細胞が主体を占めるが, これらの腫瘍細胞には免疫染色や,電顕所見を含め,形態的に平滑筋の特徴がみられた. また,増殖活性は乏しいことから良性腫瘍と判断した. ヒトにおいて, 本症例のような腫瘍は Granular cell leiomyoma 1)や Leiomyoma with granular cell change 2)と診断されているが, 動物では, 免疫染色で平滑筋マーカー陽性の顆粒細胞腫の報告はごく少数あるものの, 免疫染色以外の詳細な検索は行われていない3,4). 本症例は形態学的および免疫染色の結果より, ヒトの報告にならい上記の診断名とした. (吉岡亮,酒井洋樹)
[参考文献]
1) Bhattacharyya, I. et al. 2006, Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod, 102; 353-359.
2) Roncaroli, F. et al. 1993, Hum Pathol, 24; 1260-1263.
3) Patnaik, A. K. 1993,Vet Pathol, 30; 176-185.
4) Veit, A. C. et al. 2008, Vet Pathol, 45; 654-662.