[動物]ラット,Crl:CD(SD),雌,101 週齢.
[臨床事項]ある化合物の癌原性試験における低用量群の動物で,歩行異常,呼吸不整がみられ,死亡発見された.本病変と被験物質との関連はないものと判断している.
[剖検所見]右大腿部筋肉内に直径約 6cm 大の腫瘤が認められ,一部骨盤腔に浸潤していた.割面は充実性,乳白色であった.
[組織所見]全域で豊富な小血管を中心とした血管周囲性の同心円状配列を特徴とする腫瘍細胞の充実性増殖が観察された(図 1).核分裂像が 10 視野平均 0.7 個観察され,一部は壊死していた.と銀染色では,個々の腫瘍細胞は嗜銀性を有する豊富な膠原線維に区画されており,マッソントリクローム染色では腫瘍細胞の細胞質はほとんど赤染しなかった(図 2, 3).腫瘍組織内には比較的大型の血管も存在したが,壁を腫瘍細胞が構成しており,弾性板や外膜を有さないことからこれらも腫瘍性血管と判断した.免疫染色では,α-SMA 強陽性(図4),Desmin 陰性,S100 にはごく少数の腫瘍細胞が陽性を示した.電顕観察では,拡張した粗面小胞体とポリリボゾームのみを特徴とする細胞質に乏しい腫瘍細胞が観察され,ミオフィラメントや細胞周囲の基底板は不明瞭であった.なお,転移は認められなかった.
[診断]悪性血管周皮腫(Malignant hemangiopericytoma)
[考察]組織学的及び免疫組織化学的特徴から本腫瘍は周皮細胞由来であると考えられ,腫瘍のサイズ,局所浸潤性,核の多形性,壊死から悪性腫瘍と診断した.現在のヒトあるいはイヌの診断基準に照らした場合,本例の様な腫瘍は真の周皮細胞由来腫瘍である悪性筋血管周皮腫(Malignant myopericytoma)に分類される.ヒトでは従来,血管周皮腫と診断されてきた腫瘍が,現在では周皮細胞由来とは考えられていない.一方イヌの血管周皮腫も現在では perivascular wall tumor として再分類が提唱されている.しかしラットの場合,周皮細胞由来腫瘍は非常に稀で複雑な歴史的背景もなく,診断名として血管周皮腫が汎用されている.以上より本例を悪性血管周皮腫と診断した.(小林亮介)
[参考文献] 1) Avallone, G. et al. 2007. Vet Pathol. 44(5), 607-620.
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